その言葉と一緒に彼は席を立った。
…どこに、行くんだろうか。
さらに泣きそうになったとき、
ふと、
私の座るソファの隣に誰かが座った。
甘いその香水の匂いは、
「…俺が悪かった、ごめん」
私が幼い頃から心の奥底で想っている、
さっきまで目の前に座っていた人の匂い。
控えめに、抑えめに、
その大きい手は私の頭を軽く優しく撫でて、
「…いや、俺的に、あの羅島って人は眼中にすらなかったから」
「…なんか、付き合ったらって言われて思わず腹がたって…、ほんとごめん」
いつも私に冷たい言い方しかしない彼にとって、
こうやって慰めるのはすごく大変なことだろう。
しどろもどろになっている姿がなんだか可愛くて、
思い出せばずっと、
彼は暴言は吐くのに、優しかった。
それが擽ったく思えて、
自然と涙なんて引っ込んで代わりに笑顔が出てきて、
ゆっくりと顔を上げて坂下を見つめながら、
「ううん、大丈夫。私こそごめんね」
そう言って微笑んだ。
それを見て彼は目を見開いて一瞬停止したかと思うと
すぐに顔を背けて席を立って、
私の目の前に座り直した。
しかも、全然こっちを見てくれない。
というか顔を見せてくれない。
…いやぁ、幼なじみ歴10年は超えるけどさ、彼の扱い方難しすぎない?



