少しずつ暑さが増していく、5月。
高校2年になって1ヶ月が過ぎた。
私、佐々木音葉(ささきおとは)は朝のチャイムまでの間暇で英単語帳を眺めている。
そんな中、少し辺が騒がしくなったのはあいつが来たからだろう。
「おはよう坂下ー、古典やった?」
「仕方ないな、見せるからちょっと待って」
「坂下ー!明日暇ー?」
「暇だよー」
話題の中心、人気者。
坂下美夜(さかしたみや)は、勉強も運動もそつなくこなすハイスペック男子。
それでいて、顔立ちは整っている。
中性的な美しい顔に、柔らかな黒髪。
スタイルも良くて長身、少女漫画を描くなら王子様枠だというくらい完璧。
…そんな彼は、私の幼なじみ。
保育園の頃から一緒で、小学校、中学校と…高校まで同じ。
誰にでも優しいはずの彼は昔から、
私にだけ、暴言を吐く。
トントン、不意に軽く叩かれた肩
振り向くと、彼だ。
「おい、平凡女。絆創膏」
そう言いながら私に見えるように屈んで、
右手の人差し指を見せてくる。
どうやら、紙か何かで指を切ってしまったらしく軽く血が滲んでいる。
それを見て、スクールバッグからポーチを取り出して開け、絆創膏を手渡す。
「…えっと、はい」
渡すと、眉をひそめられ「だるい、つけて」
と不機嫌そうに言われる。
え、と思いながら絆創膏を開けて、
彼の人差し指にちょうど巻きつけてあげた。
それを見て、
「可愛げ無いんだしこれくらいしねぇとな?…ありがと」
と言いながら、去っていき向こうの大勢に紛れたころには彼は優しい笑顔で。
私には、見せてくれないけど。