『目立たず 静かに こっそりと』


「凛花、この張り紙、なんなの?」


いとこの鈴之助(15歳)が

顔をしかめて、
わたしの部屋の壁を指さした。


「見たとおりの意味だよ?」


「見たとおりって…

目立たず、静かに、こっそりと?

スパイとか工作員、目指してんの?」


眉を寄せる鈴之助に、
表情を変えずに

答えを返す。


「それ、穏やかに生活するための、
大切なスローガンなの。

芸能人やってるイトコと
一緒に暮らしてる、

なんて知られたら

まともな高校生活
送れなくなっちゃうから」


カバンに荷物をつめながら、

透けるような金色の髪に
大きな丸い瞳を
キラキラさせている鈴之助に

視線を移す。


「ふーん、じゃ、
その地味メイクもMSKのひとつ?」


「MSK?」


「だから、凛花のスローガンなんだろ。

目立たず(M)
静かに(S)
こっそりと(K)」


「とにかく、お願いだから邪魔しないでね。

鈴之助のことはもちろん、応援してる。

でも、これは、これ。

なにより、
私は地味に静かに暮らすほうが合ってるの」


「だからって、

黒ゴムで髪をひとつに結んで、
目、悪くもないのに、
黒縁のダテ眼鏡かけて?

挙句に、その中途半端なスカート丈。
地味の極み、目指してんの?

学力偏差値70くらいには見えるけど、

女としての偏差値は
10くらいにしか見えない。

俺のイトコにしては、
あまりに残念すぎる」


「それ、最高のほめことばだから。
ありがとう」


むしろ、
女子力偏差値なんて
5くらいで十分だ。


「ほんっと、
凛花って、変わってるよな」


「ありがとう。それも、誉め言葉。
とにかく、静かに余生をおくらせて」


「女子高生が余生って
まじ、それ、終わってるから」


あれやこれやと文句を言いつつも、
鈴之助は鏡に映る自分の姿を
余念なくチェックしている。


「大丈夫だよ、鈴之助はかっこいいよ」


「凛花が褒めてくれたら、俺、超頑張るし」


「うん、頑張って」


「で、凛花は地味の極みを目指すわけ?」


「その通り」