「は、は、は、遥先輩! あの広告‼」



遥先輩のお父さんが新しく立ち上げたブライダル事業の広告を見て、ひっくり返った。



「ど、ど、どうしてあの写真が!」



「あー、あれな、正直、俺もビビった。スタジオで写真撮ったのは、なんだったんだろうな。ま、スタジオで撮影した写真もパンフには使ってもらえるらしいから、無駄にはならないよ」



「そ、そうじゃなくて!」



「今回のCMめちゃくちゃ評判いいって、親父が絶賛してたよ。それで、俺もこの写真、記念にもらってきた」



遥先輩の手にしている写真の束を見て絶句する。


一枚だけじゃなかったんだ……



CMや広告に使われたのは、スタジオで撮影した写真ではなく、ブライダルフラワーが山積みされた廊下の隅で、タキシード姿の遥先輩と、ウェディングドレス姿の私がこっそりとキスをしている写真だった。



画面いっぱいに映っているのは遥先輩の綺麗な横顔で、ブーケに隠された私の顔はほとんど見えないけれど、かなり濃いめのキスシーンを撮影した写真の数々。



引退したモデルHARUKAの最後の仕事ということで注目度も抜群のなか、かなり濃厚なキスシーンとあって世の中は大騒ぎ。



あのキスが、ま、まさか、公共の電波で放映されることになるなんて……



だれもいなかったはずなのに、どうして⁈



「親父とカメラマンが、こっそり俺たちのあとをつけてたらしい」



「怖い! 油断も隙もあったもんじゃないっ!」



「彼氏とのキスひとつで、そこまで騒ぎ立てるなよ。あのときは、凛花だってけっ
こう……」



「それ以上、言わないで!」



「よしよし」



頭をなでなでしてくれてるけど、今回だけは本気で怒ってるんだから!



「凛花、これは俺たちの一生の記念だよ。俺のモデル生活最後の一枚が、この写真なのが俺は最高に嬉しい」



「ううっ」



ああ、もう、遥先輩はずるい! 



遥先輩のたった一言で恥ずかしかったはずのその一枚が、特別な一枚に思えてきちゃうんだから。



改めて、その写真に視線を落とす。



甘く柔らかな表情で、熱っぽく唇を重ねている遥先輩の横顔は、写真で見てもドキリとする。



うん、 文句なしに最高の一枚。やっぱり遥先輩はすごい。



「遥先輩、私が絶対に遥先輩のことを幸せにするから」



「急に男らしいな。けど、ものすごく期待してる」



まっすぐに、遥先輩を見つめてうなづいた。