すると本郷社長がやって来て、遥先輩のお父さんと遥先輩と話し合いを始めた。



でも……



遥先輩、本当にモデル、やめちゃうのかな……



撮影中の遥先輩を思い出して、きゅと口を結ぶ。



私のためにやめるなんてことは、してほしくない。



まだまだ遥先輩はモデルとして、たくさんの人を感動させることができる。



遥先輩と一緒に更衣室に向かう途中、まわりに人がいなくなったところで、先を歩く遥先輩のタキシードの裾をちょこんとつまむ。



「遥先輩」



「ん?」



「モデル、やめなくても、いいんじゃないかな」



「ったく、親父だろ。凛花には言うなって、伝えておいたのに」



視線を尖らせた遥先輩の目をじっと見つめる。



「遥先輩には、モデルとして天性の才能があると思う。望んで手にいれることが出来ないものを、遥先輩は持ってるんだよ」



「俺は凛花がカッコいいって思ってくれれば、それでいい」



あっさりと答えた遥先輩に、ふるふると首を横に振る。



「遥先輩の撮影中ね、遥先輩の表情や仕草に心臓がぎゅっと苦しくなったの。モデ
ルHARUKAのつくりだす世界に、みんなが心を掴まれてた。すごく、感動したんだよ。そんな才能を簡単に手放すのはもったいないよ」



多分、それは遥先輩だけに与えられた特別な才能。



「俺は自分にとって大切なものをもう知ってる。だから、もったいないなんて全く思わないよ。俺にとって一番大切なのはお前だよ、凛花 」



「でも……」



「凛花をすこしでも危険に合わせる可能性があるものは排除するだけ。凛花だけが俺にドキドキしてくれれば、俺はそれでいい」



切なくなるくらいに、遥先輩の想いはまっすぐで、ちょっとだけ辛い。



「私で、いいのかな……」



遥先輩の想いの強さに反比例するように、どんどん自信がなくなっていく。



「凛花じゃなきゃ嫌だし」



「私は、遥先輩の隣に並べるだけの特別なものをもってるわけでもないし、秀でたなにかがあるわけでもないよ」



「ただ、凛花が凛花であるだけで、俺には特別。それ以上の理由なんていらない。それとも凛花は俺じゃ嫌なの?」



「私も、遥先輩じゃなきゃ嫌だ」



まわりに人がいないことを確認して、そっと遥先輩に抱きついた。