「は、はじめまして。白石凛花です」



深くお辞儀して、その洗練された佇まいに息をのむ。



紳士! 



「あのさ、おやじにクラっとするのやめてくれる?」



遥先輩のお父さんも、遥先輩に負けず劣らずキラキラと煌めいている。



「はじめまして、凛花さん。遥からよく話は聞いているよ。今日は無理言って悪かったね」


ゆったりと微笑む品のいい笑顔。



すごく元気そうに見えるのに、余命わずかなんて。



視界がうっすらと涙でにじむ。



遥先輩のお父さんがスタッフさんと話し始めたところで、涙をふいた。



「あれ、凛花、泣いてる?」



「だって、遥先輩のお父さん……あんなに元気そうなのに、余命わずかだなんて。
とても、そんなふうに見えないのに……」



「は? うちの親父、めちゃくちゃ元気だけど」



……はい?



「だって、お父さんの余命が……って」



「ああ、うちの親父、すごくてさ。モンゴルの山奥の占い師に余命80年って言われ
たんだって。すごくね。130歳まで生きる計算になる」



「……ものすごく心配したんですけど」



遥先輩の言ってることを真に受けた自分を、殴りつけたい。



はあ。



がっくりと肩を落としたそのとき。



ちゅっ。



甘い音とともに、私の口をふさいだのは、遥先輩の綺麗な唇。



……え?



「ごめんね、のキス的な」



……は?



「これじゃ足りない?」



「い、いえ、もう、お腹いっぱい……じゃなくて!! こ、こんな場所でなに考えてるの⁈」



「じゃ、続きはあとで」



「つ、続きってなに⁈ 」



「凛花の全部、俺のものなんでしょ?」



「黙って‼ 公共の場でそういうこと言っちゃだめ‼」



「ここは公共の場じゃないし」



「で、でも、ここではモデルのHARUKAなんだから、こんなことしちゃダメ !」



「……だから、どうしたんだよ。俺は凛花と一緒にいられれば、それでいいんだよ」



子供みたいに口を尖らせているけれど……



「ダメだよ、遥先輩だって芸能人なんだから……」



なんだか空気が悪くなってしまって、ぎゅっと遥先輩の手をにぎると、ぎゅぎゅっと握り返された。



スタジオでは、遥先輩のお父さんがてきぱきと次の撮影の指示を出している。



「すごく素敵なお父さんだね」



余命の話には驚かされたけど、遥先輩のお父さんが元気で良かった。



「やっぱ、親父って凛花の好みなんだよな。むかつく」



……ん? なんの話だろう?