ざわざわと登校中の生徒でにぎわう正門脇で車を降りると、大きく深呼吸。



なぜなら、遥先輩につながれた手は、いわゆる恋人繋ぎ。



これは、だれがどう見たって、つきあってるふたりがすること。



「私たち、さ、さらし者だね……」



まわりからの視線に怯えて、体を縮める。



『どうしてあんな子が、遥くんの隣にいるわけ?』



『あの子のこと、だれか抹殺してくれないかな』



幻聴なのか、まわりの人の心の声が駄々洩れちゃってるのか、恐ろしくて顔をあげられない。



「俺は、凛花と手つないで登校できるなんて、めちゃくちゃ嬉しい」



遥先輩はキラッキラの笑顔でニコニコしている。



も、もちろん私も遥先輩と一緒に登校できるのは、嬉しいんだけど……



こんなに大勢の注目を集めているなか、遥先輩と手をつないで登校するなんて、地味の極みを目指していた私にとっては、かなりの難行。



胃がシクシクと痛みはじめる。



「あ、あの、こ、こういうことは、その、人前ですることではないような……」



「散々、人前でキスしておいて、よく言う」



「人前でキスしてくるのは遥先輩だよっ!」



「その通り」



遥先輩の笑顔が近づき、チュッと音を立てて唇が重なった。



「……は?」



昇降口まであと2メートルの至近距離。



がやがやと賑やかだった昇降口周辺が、一瞬にして静まり返る。



「人前でキスしちゃって、ごめんな?」



「ば、ば、ばかなの?」



「凛花のことが好きなだけ」



そ、そ、そんな眩く笑ったって、ダメなんだから!



「おい、遥、いくら親公認でも見せつけすぎ」



遥先輩のお友達がぞろぞろとやってくる。



「そうそう、カノジョ、困ってるじゃん」



……彼女?



その一言に、ぼっと顔が熱くなる。



だ、だめだ、私も完全に誤作動してるっ!



怒らなきゃいけないところなのにっ!