「声が出なくなって
それまで通ってた
厳しめのお受験幼稚園から、

自由保育を謳う幼稚園に
一時的に通うことになった」


もしかすると、それが……?


「家のリフォームで
一時的に引っ越したっていうのも、
ま、嘘ではないんだけど。

凛花が通ってた幼稚園に
リハビリとして通うために、

あそこに引っ越したんだよ」


私の通っていた幼稚園は
今思うと、
かなり自由でのびのびしていた。


学年分けもされていなければ、
特別なカリキュラムもなくて、

朝、登園すると、先生に挨拶をして、
好きな遊びをして一日を終える、

そんな幼稚園だった。


「初めてあの幼稚園に行ったときはさ、

砂遊びとは、木登りとか、
ブロック遊びとか、

みんなそれぞれが
好き勝手なことしてて、

ちょっと衝撃だった」


たしかに、
そうだったかも。

なにかを無理にやらされることは、
全くなくて

私は一日中、
絵本を読んだりお絵かきをして
遊んでいた。


「で、途中入園した俺は、
当然、孤立してて」


「……そうだったっけ?」


「ま、孤立っていうより
話せなかったから、輪に入れなくてさ」


黙ってしまった遥先輩の手を
さらに、強くにぎる。


すると、
遥先輩が嬉しそうに
頬を緩めるから、

その笑顔に鼓動が早くなって、
ちょっとだけ、困る。


遥先輩の柔らかい笑顔は
すごく眩しくて、少しズルい。