あの日の出来事に、

私以上にショックを受けているのは、
遥先輩だった。


遥先輩のせいじゃないのに。


遥先輩がいなかったら、

きっと私は……


「ごめんなさい。

遥先輩の言うことを
聞かなかった私が悪いの。

最近、遥先輩、
チアの先輩たちと一緒にいたから、

もう私のことはいいのかな、
……って、
ちょっと思ってたの。

チア部の先輩たちは、
みんな明るくて可愛いから、

遥先輩には私より
ずっと、お似合いだなって」


遥先輩の傷ついた横顔に、
本音を零す。


「ヤキモチ、妬いた?」


「……うん」


「そういうことはちゃんと言え。
思いきり甘やかしてやるから」


甘く笑った遥先輩にホッとする。

そして、思う。

もう、こんな顔、
遥先輩にさせちゃだめだ。


「さて、それじゃ、
凛花はどうやって甘やかされたい?」


いつもの笑顔を取り戻した遥先輩から
慌てて距離をとる。


「それは、いらない」


「なんだよ、それ」


「べつの意味で、
身の危険を感じるから」


「は?」


遥先輩は
ふてくされているけれど、


今、遥先輩が近づいたら
ドキドキしすぎて
心臓が壊れちゃうよ。


遥先輩のとなりに座っているだけで、
胸の鼓動が早くなるし、

耳まで熱くなるし。


「でも、……助けてくれて、
本当に、ありがとう」


そっと遥先輩の手のひらが
私の頬にふれると、

ドキリと心臓が飛び跳ねて、

そして、ホッとする。


「先生に触られたとき、
ゾッとしたの。

すごく、すごく、気持ち悪かった」


「まあ、比較対象が犯罪者って、
かなり微妙だけどな」


苦笑いする遥先輩の手のひらに、
自分の手のひらを重ねる。


遥先輩の体温に
こんなに、安心するなんて。


トクトクと鼓動を早める心臓の音に、
ゆっくりと目を伏せた。