マンションの前に着いたところで
少し悩んで遥先輩を見上げる。


「どした?」


「少し、寄ってく?
お礼にもならないけど、
お茶くらいなら出せるから」


「じゃ、寄ってこうかな」


嬉しそうに
顔を輝かせる遥先輩に

ちょっとだけドキリとする。


「あ、でも鈴之助とか、家にいる?」


「鈴之助は分からないけど
お父さんとお母さんはいると思うよ」


「へ? ふたりきりじゃないんだ?」


「遥先輩とふたりきりだったら、
危険すぎて声かけられないよ」


密室に遥先輩とふたりきりなんて、
なにをされるか分からない。


「じゃ、おじさんとおばさんへの挨拶は
また今度にするわ」


ガックリと肩を落として

ひらひらと手を振って
帰っていく遥先輩を

見えなくなるまで見送った。