「乗って」
「……っ。…分かりました…」
繋がれた手が、解かれることは決して無い。
エレベーターが目の前に辿り着いたことが分かると、わたしの心臓はもう飛び出てしまうかと思うくらいバクバクだった。
…緊張と底知れない恐怖が、一気に押し寄せてくる。
「ねぇ、」
「っ、はい」
「…。そりゃあ怯えるよね」
「あ、…いや、っ…ごめんなさい…」
扉が閉まってエレベーターが動き出すと、自分がちゃんと呼吸できているのかも分からない。
…少なくとも彼の顔を確認できる近さと光の下ではあるのだけど、そうしようとは微塵も思えない。目を合わせることも出来ず俯いてしまった。
「これ、あげる。どっちがいい?」
「え…、」
「はちみつレモンの飴か、イチゴミルクの飴。毒は入ってないよ」
「じゃあ、イチゴミルク…」
「うん。糖分とっておきな」
ポケットからふたつ、未開封の飴を取り出した彼は
密室のエレベーター内で落ち着きをはらったまま、わたしに飴を選ばせた。
…わたしもたまにコンビニで買うメーカーの、本当に普通の飴。何の変哲もない。
(……あれ、)
――…飴をいただいたわたしは、そこで違和感に気が付いた。
飴を選んで、もらって封を開けて、口に含む。
…その一連の流れを終えてもまだ、エレベーターは目的地に到着していないのだ。
「あともう少しだよ。閉じ込めるつもりもない」
「っ!」