「…はい」
――…見透かされていたことに、驚きは無い。
莉菜と来た時間帯のほの暗さが消え、不気味な静けさを含んでいたブラックシティにネオンが輝き出した。鐘が鳴った瞬間から麗蘭街の雰囲気ががらりと変わったことを意味していた。
そして何より、バイクのエンジン音が聞こえ始めている。…ちらりと大通りの車道を盗み見ただけでも、大人数が気迫を伴いツーリングをしているのが分かる。
今まで見たことのない、わたしはまだ見てはいけない、時間になってしまっているのだから。
「随分と落ち着いているんだね」
「時間を守らなかったのは、わたしですから…」
「…例えば俺が、貴女を今から組織に売り飛ばすと言っても?」
彼の目は見えないから、心中に何をひそめているのか少しも分からない。
深く妖艶に在り続ける声だけが、彼の感情を示していた。
(……あぁ、)
それでも理解できたのは、彼の言葉には現実しか見えないということ。
醸し出す空気と話す言葉、それらに付随するのは圧倒的な凄みと支配。
例えば彼が今から死ぬようにと言えば、死ぬこと以外選択肢は無いのだろう。
圧倒的な風格も権威じみた孤高さも
…話しているだけなのにそう感じる時点で
わたしの命は既に、彼の手のひらの上にあるのだから。