「目。開けていいんだよ」
だからこそ
さっきまでの震え上がるほどの声色が消え、優しさと気品を携えて
それが紛れもなくわたしに向けられている事実に、…思考が追い付かなくて。
遮断していた視界が光を取り戻すと、外灯の眩しさに目を細める。
チカチカと白黒に見えた世界は、一度目を伏せてから辺りを見渡すとしっかりと色づいていた。
「す、すみません…!」
「いや。俺が目を閉じていてって言ったのを、守ってただけでしょ。律義だね」
撫でるように降ってきた声に反応して
わたしは改めて彼のことを見る。
光を頼りに捉える姿は、氷雨という男がしていたようなウレタンの黒マスクと、ダボッとした大きいパーカーとデニムパンツ。
…深く被られたパーカーでどうしても目元も髪形も分からないし、年齢も見当が付かない。身長は180センチくらいかな、長身だ。
何より、声と雰囲気が本当に魅力的。唯一無二を感じるような――…。
「…気を付けて帰ってねって言いたいけど」
「っ、」
「未成年はそうはいかない」