――…分かっていた。

必死に這いつくばってせき止めてきた気持ちが、とっくに限界を迎えていることなんて。


一瞬でも気が緩んで、父や絵美香さんに気持ちを吐露してしまえば

頑張って頑張って頑張って耐えてきた日々が、一瞬にして崩れてしまう。


…それは、まだ父たちの協力があってこそ生きていられるわたしが

積み上げてきたものを、自ら無くしてしまうことを意味する。


何もかも、分かっていた。


だから今日もこぶしを作って耐える。

くっきりと残り続ける、呪いのような痕を嘲笑いながら、耐えるんだ。



「…朱里…、」

「…。ごめんなさい。わたしが好きなのは紫じゃなくてすみれ色だよ、一緒にしないでって今まで何回も言ったでしょう」

「………」

「…それとも、“あなたが愛した人の名前の色だよ”って言えばいい?」

「っ!」



(すみれ)という名前のお母さんが教えてくれた

わたしにとって唯一の宝物と、唯一の色。


わたしの誕生日にお母さんがプレゼントしてくれたのが

ゴールドチェーンにバイオレットトパーズがあしらわれた、光り輝くブレスレットだった。


中学生までは御守りとして、大切にお財布の中に入れていたけど

高校生になってからは毎日欠かさず、肌身離さず身に着けてるんだよ。



今だってそう。

こうしてわたしは、お母さんと――…、



「っ、あれ…?」