リビングを出て、2階の部屋へ向かう階段を上る途中

一部始終を見ていたのであろう父が、焦ったように声をかけてきた。


…バカバカしい。どうせまた絵美香のことをもっといたわれとか労えとか、あまり苦労をかけるなとか、そんな無責任な言葉をかけてくるのだろう。

わたしが何を思っているかなんて考えもせずに。自分と絵美香さんさえ良ければいい、そんな爆弾のような言葉を。


心を落ち着けるようにして握ったこぶしは、手のひらにくっきりと爪痕を残した。



「絵美香が気にしていたぞ。朱里に贈ったネックレス、つけているのを見たことがないと」

「……。付けてたらかゆくなるの。申し訳ないけどこれからもつけないと思う」

「何が気に入らない?絵美香は朱里を想って一生懸命やってくれているだろう」

「………」

「それに、ネックレスがかゆくなるって…お前がいつもつけているブレスレットと同じ金属じゃないか。色だって、わざわざ絵美香がお前の好きな紫を……」


「っ紫じゃないってば!!!」