――…絵美香さんのその大きな声を聞いたとき
わたしが弟を見る表情は、ひどく冷酷なものだったと思う。
「っ、」
「何かあってからじゃ遅いんだよ!?抱き方も違うし…」
「ぎゃあーーっ!!!」
「っ、ほらもう…。よしよし、怖かったねー」
弟をわたしから取り上げるようにして抱き上げた絵美香さんを見る顔も、ひどいものだったと思う。
だったら最初からわたしに頼まなきゃいいのに。ご飯だって自分で何とかするし、ちゃんといらないって言ったのに。
…なんで、なんでよ。
なんでわたしだけ、こんな思いをしなければならないの。
「…ご飯、いりませんから」
「っ朱里ちゃん…!」
この家に居場所なんてない。…だから高校を卒業したら、絶対にこんな家出ていくんだ。
わたしにとってただひとりしかいないお母さんという存在の、想い出と一緒にひとりで生きていく。
「朱里、待ちなさい」
「……お父さんが食べれば?絵美香さんが作ってくれたんだし」
今はただ、ただ、耐えるしかないの…っ。