ふと視線を感じて紫月を見ると、彼は優しい顔をして微笑んでいた。

その表情に背中を押され、わたしは深呼吸をして考える。


…絵美香さんはどんなに忙しくても家事をやってくれていた。

わたしもやりますと言ったら、いらないから!と強めの口調で言われたこともあり、迷惑かなと思っていたんだけど

ひとりでいろんな不安と闘いながら、完璧にこなそうと努力してくれていたのかもしれない…。



『…あ、おかえり…。今、朱里ちゃんと電話』

『朱里!?元気なのか…?最近遅く帰っていてご飯も一緒に食べられていないが、』

『代わる?出てくれると思うよ』

『…いや、いい。朱里には迷惑だろうから…』


(…お父さんだ、)



仕事から帰って来たのだろう、絵美香さんとお父さんのやり取りが聞こえる。

……お父さんも、わたしのことを気遣って一歩引いていたのだと、改めて気付かされる。



避けていたのはどっちだ。

…孤独だ孤独だと決めつけながら、自分自身を追い詰めて。



「っ絵美香さん、お父さんに代わってください…!」