「朱里。先程は怖がらせてしまって、申し訳ありませんでした」

「と、とんでもございません…!っわたしもご挨拶をすぐ出来ず、」

「それは良いのです。…私に水を持ってきてくれるとは、心根が優しいのですね」



支配人はとても穏やかな声をしていた。

…まるで今までの人生を、頭の中で駆け巡らせているかのように。



「…紫月にあなたのような存在が居ると知られて、安堵しました」

「そんな…っ、」

「紫月を頼みますよ」

「はい。もちろんです!」



…なんだろう。

この胸騒ぎの果ては、どこに辿り着くのだろう。



「…よろしくお願いしますよ…」



苦しそうに微笑んだ支配人に

ただ、何度もうなずくことしか出来なくて

それでも支配人は、満足そうに握手をしてくれて。



その手が限りなくつめたいことを、きっと彼は自分で理解していた。

いまにも消えてしまいそうなくらいの脆さに、わたしは最後まで困惑が拭えなかった――…。