「…朱里、」



悲しい熱を含んだ掠れ声が、再びわたしの名を呼んだ。

さっきと違うのは、彼のリングがネックレスとなって肌に触れていること。


それが、唯一でありすべてだった。



「柚葉ちゃんとか氷雨さんとか、他の人の前では…かっこ良くてちょっと怖いくらいの紫月さんでいてください。…むしろ、そうしなければならないのだと分かっています。

――…でもわたしの前では、強がらないで」



願いすら持つことを許されない彼の、光になりたいと思った。

…本当はきっと、とても弱くて繊細なひとだ。



「…もっと早く、朱里に出会いたかった」

「ふふっ、これから思い出を作っていけばいいんです。死ぬまで一緒にいるんですから」

「……そうだね」

「はい」


「愛してるよ、朱里」



深みを纏った声色と、射抜くようなすみれ色の目が、何度もわたしを疼かせる。

そのたびに降る口づけに応えると、彼は満足そうにわたしに触れるのだった。



愛されたい。その願いはきっと、彼もわたしも確かに同じだった。

同じものを求めるわたしたちに、隔たりなど存在しなかった。


過去と今に向き合う彼。未来へ向かおうとするわたし。

…だからこそともに、と思っていた。最期まで傍にいるのだからと。



浅はかだった。

――…それに気が付いたのは、もう少し先のこと。