「紫月さんの願いは…あるんですか…?」
――…生きろ。
この街を知る人に何度も言われたその言葉。
それがどれだけの重みを含んでいたのか、今になって実感している。
「無いよ。捨てた」
「…え、」
「……俺はもう、願ってる立場じゃない。叶えていく立場だから」
(…あぁ、)
力強い言葉の裏で、彼がわたしの肩に顔をうずめたのが分かった。
だからこそ思ったのだ。
――…彼はきっと独りで闘い続けている。その、皆が持つ願いのために。
「紫月さん、」
「………」
「…たとえば寂しいなら寂しいって、言ってください。わたしには」
「っ、」
「さっきわたしに言ってたでしょう、そのままでいいって。…紫月さんも同じですからね」
何を
どれだけ
背負い続けてきたのか。…分からないけど。
「愛しています、紫月さん」
解けた腕、彼と向き合った身体、再び注いだキス。
彼が求める果てになりたいと、絡まる舌を感じながら思ったのだった。