「ん、決めたの――…、」



莉菜の弾んだ声で

左側を見る彼女とは反対に右側のお店ばかりを見ていたわたしは、ハッとしたように左を向いた。



「………、」

「なんかおしゃれじゃないっ?」




――…黒にまみれた外観だけを見ているのに、まだ外観だけしか見ていないというのに。



「このお店…、」

「朱里も気になる?紫の旗立ってるし、うちらでも入れるよぉっ!」



薄暗がりの中、扉の前のライトが一筋の光となって

人々が光を求めて、集まってくるかのような。


溢れ出る品と落ち着きと孕んだモダンなその建物は、初見のわたしの心を奪うには十分だった。




「…朱里?」

「…あ…、ごめん。入ろっか」

「うん!旗立ってて良かったねぇ」



莉菜が無邪気な子どものように、扉に手をかけた時



「っ…、」



――…冷たい風が頬を撫でたことに、初めて気が付いたのだった。