「…かしこまりました。お呼びいたします」
「助かる」
「しづ…「氷雨」
「っ、」
「愁世も。…邪魔、しないでね」
…あぁ、多分。
多分、そうなのだろう。
唯一無二の存在感。雰囲気。威圧。崇美。
摩天楼の最上階、大豪邸で妖艶に微笑んだ事実。
――…誰も逆らえない。きっと、彼こそが支配者。
(…でも、)
“――…もう一度言うぞ、この街は狂った街だ。支配者の監視下にある街なんだよ”
氷雨さんのさっきの言葉を借りれば
麗蘭街は、紫月さんの監視下にある街だということになる。
何十年も続いている麗蘭街を
年齢は分からないけれど、若い紫月さんが。そんなことありえる?
……それとも、わたしの推理は間違っていて、そもそも彼は麗蘭街の支配者ではない――…?
「…里、朱里」
「っ!あ、すみません…」
「行くよ、車が来た。…バイオレットレモネード、飲ませてあげられなくてごめんね」
…わたしが考えを巡らせている間に、車が来たらしい。
紫月さんはわたしと柚葉ちゃんとは目を合わせて微笑んだけれど、氷雨さんと店員さんのことは見なかった。
「嬢ちゃん、またな」
「またどうぞお越しくださいませ」
――…切なさと悲しさをぐっとこらえた、“大人”の2人。
わたしは何も分からないまま、足早に去ってしまった紫月さんのことを、柚葉ちゃんとともに追いかけたのだった。