「「………」」
氷雨さんと店員さんは、紫月さんの高圧的な声に黙り込んでしまった。
…やっぱり紫月さんには何かがある。同じ麗蘭街の住人であろう人たちも一瞬で黙らせるような、
まるで紫月さんが絶対だと言うかのような、何かが…。
(…そうだ)
――…“全部、作り話だったら良かったのにね?”
あの日、紫月さんは麗蘭街に伝わる伝説を肯定した。
そしてわたしは聞いたんだ。麗蘭街の支配者かと。
返ってきた答えは、“もう逃がしてあげられない”というものだった。
「お…、お兄ちゃん、いいの…?」
「いいのって何が?柚葉まで変なことを言うなぁ」
「…ごめん、なさい…」
微笑みを崩さない紫月さんに、柚葉ちゃんは消え入りそうな声で謝罪する。
…誰も、何も、言えない。言うことが出来ない。そんな空気を実感した。
「車を出してもらえるかな」