「俺には、あんたの方がつかめない」
「そう?」
「…。気が強い知りたがりかと思えば、少ない言葉で状況を察知して一線を引き出す」
――…御堂くんの瞳が揺れているように見えて
彼は何かに葛藤しながら、言葉を選んで話していることを理解して。
「…人間らしいなんて、初めて言われたよ」
落ちる言葉ひとつひとつに、彼が抱く切なさが滲み出ていて
…どうしてだろう。笑顔をつくるなんて容易いであろう彼の口角は上がり切れずに、居場所をさがしているみたいだった。
「…あんたの言う通り、俺が優等生であの性格で居続けるのには理由がある。変な話だが…どうか、黙っていてほしい。あんたにはいつかバレる気がして呼んだっていうのも、あるから」
「分かった。約束する」
「…ありがとう」
「っ、」
「…俺と、対等で居ようとしてくれて。嬉しかった」
…なんだろう
……この胸騒ぎ、得体の知れない苦しさ
――…掴まれている手が離れたら、後悔してしまいそうな感情。
「明後日、あのバーの窓なら薄く色が施されてるから。…すみれ色の満月が見られるかもしれないな」
「……待って、ねぇ、」
「きっと会える。…だから生きろ、朱里」
その言葉を最後に
彼はわたしから手を離して
もう言うことは何もないと、放送室から追い出されてしまった。
心の真ん中に堕ちた切なさは、誰も拾ってはくれなかった――…。