「ねぇ朱里…」
「…、ん?」
「お願いがあるんだけど…」
無意識に脆くなった感情を慌ててしまいこむと
莉菜の声が急に甘さを含んだものになり、わたしは別の意味で目を細める。
…嫌な予感がする。
「…まさか、また…?」
「うん!」
わたしが確認の意味で問うと、彼女は無邪気にうなずいた。
顔の前で手を組み顔を傾けて、くりっとした大きな目を潤ませて。
あ…あざとい。でもすごく画になっていて可愛らしい…。
「…莉菜。さっき先生の話聞いたよね?補導された人がいるって、」
「っ時間までに帰れば大丈夫だって!」
「でも……」
返答を渋るわたしに、莉菜の目が強気なものに変わっていく。
彼女の組んでいた手はいつの間にかわたしの机上にあって
周りから見たら、「何かを力説する莉菜」と「押され気味のわたし」という構図にしか見えないであろうと思い心中で苦笑いがこぼれた。
「朱里気にしすぎだよ!絶対時間は守るし、ちょっと楽しんだらすぐ帰るからっ!
――…ねぇお願い、一緒に麗蘭街に行こう?」