◇◇◇



朱里が階段を下り、廊下を歩き始めたことを確認し

男はうっすら笑みを浮かべたのち、階段を一段、また一段と上り歩く。




「おみずよぉ…。何してたっつーのは、藤宮紫月と朝まで何してたっつーことなんだけどなァ…」




鈍く重たい低音を独り言として落としていることは、朱里は知る由もない。



――…それでいい。



彼はそのまま屋上へ向かい

不在着信の入った携帯電話を手に取った。



「…おうよ、会ったぜ。あれは間違いなく月末に会いに行く。……はァ?クラスちげーんだよバーカ」



流れる雲をぼんやり見つめながら、自分は晴天の下に似合わないとため息をついて。

…嗚呼、早く暗くて黒い世界に戻してくれ。彼は正直に舌打ちをすると、通話相手に制されたのだった。



「ったく、しゃーねェなァ…。

――分かってる、御堂紫苑だろ。…おん、また連絡するわ」



…彼が長い息を吐いたことを知る太陽は

彼にとってはいつだって、あまりにも眩しすぎる。



「……誰も、死ぬなよ…」



呟いた言葉が溶け落ちるザマなど、出来ることなら誰も知らなくていいのに。



――…本日も晴天。

彼らには似合わない晴天の昼が終われば、じきに夜がやって来る。



うごめく黒は、そしてすみれ色は、朱里には見えるはずもない。

…今は、まだ…。



◇◇◇