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朱里が階段を下り、廊下を歩き始めたことを確認し
男はうっすら笑みを浮かべたのち、階段を一段、また一段と上り歩く。
「おみずよぉ…。何してたっつーのは、藤宮紫月と朝まで何してたっつーことなんだけどなァ…」
鈍く重たい低音を独り言として落としていることは、朱里は知る由もない。
――…それでいい。
彼はそのまま屋上へ向かい
不在着信の入った携帯電話を手に取った。
「…おうよ、会ったぜ。あれは間違いなく月末に会いに行く。……はァ?クラスちげーんだよバーカ」
流れる雲をぼんやり見つめながら、自分は晴天の下に似合わないとため息をついて。
…嗚呼、早く暗くて黒い世界に戻してくれ。彼は正直に舌打ちをすると、通話相手に制されたのだった。
「ったく、しゃーねェなァ…。
――分かってる、御堂紫苑だろ。…おん、また連絡するわ」
…彼が長い息を吐いたことを知る太陽は
彼にとってはいつだって、あまりにも眩しすぎる。
「……誰も、死ぬなよ…」
呟いた言葉が溶け落ちるザマなど、出来ることなら誰も知らなくていいのに。
――…本日も晴天。
彼らには似合わない晴天の昼が終われば、じきに夜がやって来る。
うごめく黒は、そしてすみれ色は、朱里には見えるはずもない。
…今は、まだ…。
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