あのアイボリーのワンピースは、念入りにアイロンをかけて大事にしまってある。
…わたしが気を失ってから目覚めるまでの明朝の間、当然だけどあのワンピースが売られているブランドショップが営業しているわけがない。けれど服は新品だった。
――…気付いてしまった。
あのワンピースはきっと、紫月さんが誰かに贈るものだったはずだ。
だったら、返しに行くのが筋ではないのか。
マッシュと約束した。…二度と麗蘭街には来ないと言った。
紫月さんに心で誓った。救ってもらった命、在るべき場所で地に足をつけて生きていくと決めた。
…でも、会いたい気持ちが消えてくれなかった。
彼の瞳のすみれ色の奥を、知りたいと思ってしまった。
「おみず、5時間目何だ?」
「英語。久米ちゃんのクラスは数学だっけ」
「おうよ、だるいぜ。英語なら寝てても何とかなるんだがな」
「ふふっ、その感じで帰国子女なんだからすごいギャップだよ」
「そうかァ?まぁどっちかっていうと戦国武将みたいとはよく言われる」
「あははっ!それ言った人天才!」
…ちゃんと考えよう。
考えて、考え抜いて、あの街にまた行くか決めよう。
「ありがとね久米ちゃん、またね」
「おん、気ぃ付けてな」
店員さんが言っていた、月末の金曜日まではまだ時間がある。
…きっとその日、あのお店に行けば会える。彼はそれを教えてくれたんだと思うから。