次の日から、彼が放課後私を待つことはなくなった。

 教室でも目も合わないし、話しかけてくることも、もちろんない。

 もう、一週間になる。

 これでよかったんだ。
 彼に関わる前の、波風たたない日常が戻って来ただけ。じきに慣れる。

 胸の痛みも消えるし、彼を目で追ってしまうことだって、なくなる……。

「さつき。最近元気ないけど、どうしたの?」

 昼休み。美樹がそっと、私の肩に手を置いた。

「気になってたんだ。さつき、ずっと東のこと気にしてるし。いっしょに帰ったりもしてたでしょ? 話してくれるまで待とうと思ってたんだけど」

「美樹……」

 私は、わっと泣き出してしまった。

 美樹は、やれやれ、と、私の頭を撫でた。

 たどたどしく、要領を得ない私の話を、辛抱強く聞いてくれて。そして。

「なんで告白、断っちゃったの?」

 と、静かに言った。

「だって。私なんて。男子に好かれる要素なんて何もないのに。からかわれているのかも、って」

「東が実際どんなやつなのか、知らないけど。一緒にいて、どう思ったの? さつきのことをもてあそんでおもしろがるような奴なわけ?」

 それは……。

 雨の中、鞄をぶちまけた東くん。

 情けねーけど、と、自分の弱みをすべて話してくれた東くん。

 水族館で無邪気にはしゃいで、小学生に笑われていた東くん。

 私、馬鹿だ。
 東くんは女子をからかって面白がるような人じゃない。

 それなのに私は、自分が傷つきたくないばっかりに……。

 もう、彼といっしょにいる時間を取り戻せないかもしれない。

 だけど、せめて。

 疑ってしまったことを、謝りたい。