ドキドキして、そわそわして、落ち着かない。
「今日はおろしてるんだなと思って」
「あ、はは。最近寒いから、髪の毛で暖を取ってんの」
「ふーん」
短い返事。
いつもとちがうのは、高瀬が真剣な表情をしてるってこと。
いつもみたいににっこりしてくれたら、わたしも冗談で返せるのに。
髪を触ってる手だって、そんな顔をされたら振り払えない。
──ポキッ
緊張してシャーペンの芯が何回折れたかな。
そのたびに小さく笑われて、内心ドッキドキ。
まさかとは思うけど、からかわれてる?
「よ、よし、書けたっ」
「えー、もう?」
残念そうに唇を尖らせて、まるでもっとこうしていたかったというような口ぶり。
「わ、わたし、提出して帰るね。じゃあ!」
一刻も早く教室から出たくて、急いで荷物を詰めてカバンを肩にかけ、日誌を持って教室を飛び出した。
廊下を駆け抜ける足がガクガクする。
なんでか、高瀬に触れられたところが熱い。
ふとしたときに高瀬を思い出す回数が増えたこと。
ジワリ、ジワリ。
ゆっくりと、心を占める割合が高瀬で侵食し始めてるなんて、このときのわたしは知る由もなかった。