「行こ」

穂波の横を通りすぎて、廊下を突き進む。

はぁ、めちゃくちゃ緊張したぁぁぁ。

膝だってガクガクブルブル。

でもでも、どうしても許せなかったんだもん。

全身にじっとり汗をかいてる。

「環……ごべんね」

後ろで涙声の穂波が鼻をすすった。

通りすがりの生徒たちから好奇の目を向けられて、ものすごく居心地が悪い。

振り返って穂波の手を取り、ひと気のない空き教室まで引っ張っていく。

ピシャリとドアを閉めて穂波に向き直った。

「大丈夫?」

「う、う……っ、ごべん」

「喋れてないよ」

「う、ん……っ」

ねぇ、泣かないで。

穂波には涙なんて似合わない。

「穂波……」

握り締めた穂波の手は、驚くほど華奢で弱々しい。

穂波ってもっとこう、凛としてて何事にも動じないような子じゃなかった……?

「勝手なこと言ってごめんね。わたし、どうしても我慢できなくて…」

「ううんっ、そんなこどないぃっ……!」

ガバッと勢いよく抱きつかれた。

穂波の細い肩は震えていた。

サラサラの黒髪がブレザーの肩から流れ落ちて、女の子らしいいい香りがする。

女子のわたしでもドキッとするほど穂波はとても魅力的。たとえ、泣いて弱っていても。

そういえば、西河が穂波は弱いんだって言ってたっけ……。