「驚かせてすまない。まさか今日妹がここに来るなんて俺も知らなかった」

礼さんはバツの悪そうな表情で額に手を当てる。

「いえ、大丈夫です。ちょっとびっくりしましたけど」

私は首をすくめて笑った。

「礼兄ちゃんの彼女さんなんてもう随分長い事お目にかかったことはないわ。もう全てを会社に捧げて彼女なんか作らないんだと思ってた。隅におけないわねー」

澪さんは明るく笑うと彼の腕をパシッと叩く。

見かけの美しさとは違ってさばさばした男っぽい性格なのかな。

澪さんの人懐こくてあっさりした雰囲気に私の緊張も和らいでいった。

その時、彼がぽんと手を打ち「あ!」と私の方に顔を向ける。

私が小首をかしげると、彼はニヤッと笑い続けた。

「お前の言ってた夢の相手、思い出したぞ。こいつだ。澪だよ。久しぶりに夢に出てきたんだ」

「そうなんですか?」

「ああ、澪とはここ数年ご無沙汰していてね。一年前、ヨーロッパを渡り歩いてるとメールをもらっていたんだがそれ以外の情報がなくて心配していた時に久しぶりに夢に出てきた」

そうだったのね。

夢の人が澪さんだとしたら、なんとなく納得できた。私って本当に単純だ。

だけど彼を信じることがやはり最善だと思う。

澪さんはキョトンとした目でそんな私たちの会話を聞きながら尋ねる。

「夢の人?何それ」

彼は私を意味深な目で見つめながら答えた。

「いや、こちらの話でお前には関係ない」

「あっそ」

澪さんは少し頬を膨らますとくるりと彼に背を向けリビングに戻っていった。

「すぐすねるのは昔から変わってない。もうすぐ三十になるってのに。いつまでもあんなだから俺も心配なんだ」

彼はそう言うと苦笑する。そして、私の手を握るとリビングにゆっくりと向かった。