この状況はあまりにも恥ずかしすぎる!

すぐ目の前に彼の横顔。

そして、周囲の冷やかすような笑い声。

それなのに体はだるんだるんで力が入らない。

思わず自分の両手で顔を覆った。

「すみません。恥ずかしいです」

顔を覆ったままそう言うと、彼は微かに笑う。

「ここに今のお前を置いて帰ったらもっと恥ずかしいぞ」

確かにそうですけど。

店員が開けてくれた扉を抜けると、冷たい風が頬に当たる。

彼もこの場所は朝晩はかなり冷えると言っていたっけ。

でも、彼の体に包まれて、ちっとも寒くはなかった。

背の高い彼が私を抱き上げると、随分と高い位置に自分の視線がくる。

それよりもまだ彼の頭の位置は上だ。

彼から私を見たら随分小さく見えてるに違いない。

澄んだ夜空に無数の星が瞬いていた。

彼の歩く振動が心地よく体に伝わってくるうちに、熱く火照った体が次第に落ち着きを取り戻していく。

「いつもありがとうございます」

彼の腕の中で小さく言ってみた。

「ん」

暗闇で彼の表情ははっきりと見えなかったけれど、決して怒っているような声ではなかった。

彼にこうして抱き上げられるのは初めてじゃないような気がする。

あの日、バーでつぶれていた私を抱き上げホテルまで運んでくれたのも彼だったものね。

好き、だなんて決して言えるような相手ではないことは十分わかってるけれど、好きになってしまった気持ちはもうどうしようもない。

自分の気持ちから逃れるなんてことはできないから。

心地よい揺れと地面を踏みしめる彼の足音に私の体も心も癒されていく。

このままずっとこうしていたい。

寝ちゃだめだ。今こんな状況で寝るなんてもったいない。

……寝ちゃ、だめ……。