確かに小学生のときの私は学年の女子のなかで五〇メートルのタイムが速いほうで、毎年リレーの選手に選ばれる率が高かった。
だけど、小学校の六年間で星野くんと同じクラスだったのは三回程度だった。
それなのに、「相変わらず」とか人の過去を知っているようなことを言ってくるのはズルい。
「私のことなんて覚えてないんじゃなかったの?」
気恥ずかしさからつい皮肉な言葉を口にすると、星野くんがふと顔を上げて苦笑いした。
「深谷って、結構根に持つタイプだよな」
「一度言われたことは忘れないだけ」
ふいっと顔をそむけながらつぶやくと、星野くんが小さく笑う声がした。
「まぁ、いいけど。それより、あのとき智ちゃんになんて言ったの?」
「あのときって?」
「智ちゃんがこけたとき」
横を向くと、星野くんが私のことをじっと見ていた。
私を真っ直ぐに見つめる星野くんの真剣な顔付きに、胸がそわそわとする。



