青春ヒロイズム



余計なことをしたかと思ったけど……

村田さんには私の言葉がプラスに働いたらしい。

手の甲で目元を拭った村田さんが、バトンを握り直して立ち上がる。


「野宮さん、まだ終わってない」

そう言って微笑むと、まだ座ったままの野宮さんを助け起こした。


「転ばせてごめんなさい。でも、最後まで頑張ろう」

綺麗に微笑む村田さんに、野宮さんが微妙な顔で数秒考えこんでから諦めたように頷く。

それからふたりで前を向くと、同時に一呼吸してから足並みを揃えて走ってきた。


「棄権はしません」

体育祭委員に早口で伝えると、持田さんを促してバトンをもらう準備をする。


「友ちゃん、お願い」

村田さんが私にバトンを託しながらつぶやく。

その声に頷くと、私は持田さんと共にスタートを切った。

ほとんど練習しなかったけど、私と持田さんのペアの走りは元々そんなに悪くなかった。

声かけをしてお互いに呼吸を合わせれば、そこそこのペースで走ることができる。