目を見開いて固まったままふたりの会話を聞いていたら、星野くんがこっちを向いた。


「深谷、絵具と筆まだ?」

「あ、はい」

星野くんに催促されて、慌てて絵具と筆二本を後ろから取って手渡す。


「おー、ありがと」

絵の具のバケツを渡すとき、星野くんの指がほんの少しだけ私の手にあたる。


「はい、竜馬も」

「えー。俺、絵とか苦手」

「決められた色を塗るだけだよ」

すぐに石塚くんと話し出した星野くんは、もう私の方は見なかった。

だけど、他のクラスメートの女子みたいに普通に星野くんに話しかけられたのも、こんなに長く会話したのも初めてだ。

星野くんの指が軽く触れたところに掌をのせて、そっと包む。

こっそり星野くんのことを盗み見ると、石塚くんとふざけ合いながら横断幕に色を塗っている彼のそばには角が潰れた飲みかけのイチゴミルクのパックが置かれていた。