ジュースを持って戻ると、村田さんは教室でクラスの横断幕制作を手伝っていた。
「遅くなってごめん。これ」
床に膝をついて絵の具で色を塗っていた村田さんの隣に座る。
イチゴミルクを差し出すと、村田さんが顔を上げてにこりと笑った。
「ありがとう」
村田さんは私が手渡したイチゴミルクを少し飲むと、また筆をとって色塗りを再開した。
それぞれの出場種目の競技の練習が終わった人たちが色塗りを手伝っているけど、横断幕はまだ半分もできあがっていない。
横断幕作りは時間がある人が競技の練習のあとに残って任意で手伝っているのだけど、私はまだ一度もやったことがなかった。
「私も手伝おうかな」
小さくつぶやくと、村田さんが驚いたように顔を上げた。
村田さんと目が合って、なんだか気まずい。
「あ、えっと……」
「うん、みんなでやったほうが早く終わるもんね。筆と絵の具、あっちにあるよ」
困って視線を落とすと、村田さんが私に笑いかけながら教室の窓側の壁を指差す。
そこに敷かれた新聞紙の上に、大きめの絵の具バケツと筆が置いてあった。
「ありがとう」
お礼を言って立ち上がると、筆を取りに行く。



