星野くんが言っているのは、この前偶然盗み聞いてしまった私に対する陰口のこと。

やっぱり星野くんは、私が話を聞いていたことに気付いていた。

気付いていて、私が話を聞いていようが「関係ない」と言ったのだ。

それってもう完全に、絶望的に、関係修復なんて百パーセント不可能なくらいに嫌われている。

星野くんへの淡い気持ちはもう消し去ったと思ったのに、その事実を突き付けられたらまだ結構ショックだった。


私も案外、諦めが悪い。

だけど、いつまでも未練を引き摺らずに本当に消し去らないと。

だから、悲しい気持ちもショックな気持ちも顔に出さないように奥のほうへと押し込めた。


「好きじゃないの。生理的に」

星野くんの目を真っ直ぐに見て冷淡な声でそう告げると、彼が私を見つめ返しながら嘲るように笑った。


「へぇ、奇遇。俺も一緒」

星野くんの手から、握られていたタワシが落ちる。

蛇口を捻り、かなり強い水量で手についた泡を流すと、星野くんは私を放って行ってしまった。