「とりあえず、ちょっと座れよ」
ペットボトルを開けようとしていると、星野くんが先に地面に腰をおろす。
その隣をとんっと手のひらで叩いた彼に催促されて、私もゆっくり腰を降ろした。
「腕、見せて」
「え?」
戸惑っていると、星野くんが私の左腕をつかむ。
「ここまで来る途中、俺につかまる深谷の腕が怪我してんの見えた」
指摘されて仕方なく浴衣の左袖をそっと捲ると、擦り傷がある。
「そのままにしてて」
星野くんは買い物袋の中から絆創膏を取り出すと、私の腕の擦り傷に貼ってくれた。
「家帰ったら、ちゃんと洗って治療してもらったほうがいいと思う。足は、明日にでも病院連れてってもらえよ」
「うん……」
「さすがにその足じゃ、花火客だらけの満員電車に乗って帰るのもキツいよな。親に電話したら近くまで迎えに来てもらえたりする?」
「連絡してみる」
星野くんの言葉におとなしく頷いて、お母さんに電話をかける。
転んで捻挫したかもしれないことだけ伝えると、お母さんは電話口で数秒黙り込んだあとに「車で迎えに行く」と静かに言った。
その声だけでお母さんの気持ちを慮ることはできない。
だけど、いつになく明るい笑顔で私に浴衣を着付けてくれたお母さんの顔を曇らせてしまったことは容易に想像がつく。
お母さんの哀しい顔を思い浮かべながら、スマホの通話を切った。



