「え、でも花火が……」
「歩きながら見れば?」
「だけどせっかく来たのに……」
「今ここでしか見られないようなもんでもないだろ。花火より怪我の手当てのほうが先」
「でも……」
「深谷、しつこい」
星野くんに苛立ったような低い声で制されて、私は口を閉ざした。
私が黙ると、星野くんが土を蹴って静かに土手を登っていく。
星野くんの歩くリズムに合わせて、ゆっくりと身体が揺れた。
私をおぶった星野くんは、途切れることなく打ち上げられる花火を少しも見上げることなく歩き続ける。
だから私も、優しい振動に身を預けながら花火の鳴る音だけを聞いていた。
星野くんの背中にくっついて、ドクドクと速く鳴り続ける鼓動。
それを掻き消すように響く花火の音が、耳にとても心地よかった。



