「私、トイレ行ってくる」
スマホをきつく握りしめて唐突に立ち上がると、星野くんが困惑気味に眉を寄せた。
「急に何だよ。もうすぐ花火始まるけど」
「急じゃないよ。ずっと我慢してたから」
「は?」
眉間に力を入れて睨む私を、星野くんが意味不明とでも言いたげに見つめ返してくる。
ふたりがビミョーなら、みんなが来るまで私がここから離れるしかない。
私は星野くんから離れると、周りの人を避けながら通路になっている道のほうへと土手を下った。
「深谷」
一緒にいたってビミョーな私のことなんてどうでもいいはずなのに、星野くんが呼び止めてくれる。
その声につい気を取られて、足が滑った。
慣れない下駄のせいでうまく体勢が整えられず、そのまま土手をズルズルと滑り落ちていく。



