「ちょっと上に行ったほうが見えやすいのかな?」
「登ってみる?」
ひとりごとみたいな私のつぶやきを拾った星野くんが、クスリと笑って先に土手を上へと登り始める。
「あ、待って」
慌てて追いかけようとしたら、土と草で下駄の裏が滑った。
膝から転びそうになったとき、先に上がったと思っていた星野くんが私の手をつかんだ。
そうして、ぐっと上へと引っ張り上げてくれる。
「ありがとう」
助けてもらったお礼を言うために顔を上げると、思ったよりも近い距離に星野くんの顔があった。
かなりの至近距離で星野くんと目が合って、頬が一気にカーッと熱くなる。
勢いよく顔をそらす私のそばで、星野くんが苦笑いした。
「その格好、実は全然花火大会向けじゃないよな。歩きにくそうだし」
すぐにそれが浴衣のことだと気付いて、今度は一気に頬の熱が冷めていく。
もしかして星野くんは、私が浴衣着てきたことを迷惑に思ってる?
今だって、うまく坂を登れなくてこんなふうに手間をかけてるし。
彼女ならともかく、あまりよく思ってない女子の浴衣になんて興味ないよね……



