「おまえが居残ってるだろうと思って戻ってきた」

榛名先輩はかほの席にどさっと座って、私の顔を覗き込んだ。

「泣くな」
「ごめんなさい。私のせいで」
「おまえだけのせいじゃない。俺の甘さだ」

榛名先輩は周囲を気にして誰もいないことを確認してから、私の頭に温かな手をのせた。そのまま何度も髪を撫でてくれる。

「私のせいで、傑さんが……」
「関係ない。それに俺は日頃から周りに恩を売ってる。こういう時はみんな助けてくれるもんだ」

真面目に威張って見せてから、榛名先輩が私の身体を抱き寄せた。

「里乃子、一緒に頑張ってくれてありがとう」
「傑さん……」

私はその背に腕をまわして、ぎゅうとしがみついた。涙が止まらない。
私、馬鹿だ。
先輩はこんなに優しい。こんなに私を思ってくれている。
それなのに、女性といたことでパニックを起こして。
もしかしたら、事情があったかもしれない。それとも、本当に本命の女性がいるのかもしれない。
だけど、私が尋ねてごまかすようなことはしない人だ。
誠実な人なんだ。不安なら聞いてみればいい。きっと答えてくれる。
私は彼の誠実な部分を疑っていた。それが恥ずかしく情けない。

「私、傑さんに似合う女になりたい」

泣きながら、私は言った。

「傑さんの横で力になれる女になりたいです。本当にごめんなさい!」

榛名先輩は頷き、それから私が泣き止むまで、ずっと抱き締めてくれていた。