「そうかな。少なくとも、今のところ榛名さんは里乃子が好きなんだし、あんたが好きになれれば万事OK。仕事はやりやすくなるし、玉の輿だよ」
「先輩はご実家から援助なんか受けてないし、この先も受ける気ないみたいだよ」
「そうは言っても、いいとこの御曹司なのは間違いないんだしさあ」

かほたちの認識では、私が榛名先輩と交際してるのは“メリットがあるから”に見えるんだろうな。否定しきれないけど、それだけじゃもうないんだよな~。
でもうまく言えない。

会社への帰り道、かほは彼氏に連絡があると言ってスマホを手に行った。

「そこで電話してからいく。先に戻ってて」
「わかった」

とはいえ、まだもう少し時間があるので、コンビニでチルドカップのコーヒーを買った。午後、仕事しながら飲もう~っと。

ふと、コンビニから出ると、交差点の向こうに榛名先輩が見えた。ちょうどお昼時のレストランから出てきたって感じ。後ろに続くのは同僚でも部下でもなかった。
綺麗な女性だ。榛名先輩と同じくらいの年齢だろうか。清楚なオフホワイトのスーツ姿は会社員にもそうじゃなさそうにも見える。ロングヘアが艶々綺麗。はっきりとした顔立ちで、親しげに榛名先輩を見あげている。

保険の営業のお姉さん?取引先の人?そんなことを考えてみるけれど、ふたりの距離の近さに、すべての想像が打ち砕かれる。家族か恋人みたいに距離が近いじゃない。
先輩にはお兄さんがいるとは聞いていた。姉妹はいない。第一、彼女は先輩とは似ても似つかない。