「はい。すごく簡単なものしか作りませんから、期待せずお越しください」

ふたりでタクシーを拾い、家まで向かう。
あれ、おかしいな。無理して先輩を家に招く必要なんかないのに。私、なんで一生懸命先輩を呼ぼうとしてるんだろう。
楽しいデートだったじゃない。今日はここまででいいじゃない。
もしかして、私がまだ榛名先輩と一緒にいたいのかな。


「セキュリティ的に心配だ」

アパートに到着するなり、先輩は眉をひそめて言う。前、送ってもらったときはもう暗かったからあんまり見えなかったんだなあ。はい、我が家はこんな簡素なアパートです。

「築浅なんで中は綺麗ですよ」
「そうかもしれないが、もう少し安全なところに住んでほしい」
「いや~、お給料と会社までの近さを考えると~」

鍵を開けながら言う私の横で榛名先輩がぐっと口をつぐんだ。なんて言おうとしたのかうっすらわかる。
それなら一緒に住むか?とか言いかけてやめたんだろうなあ。
別に言葉にするくらい全然いいけどね。嬉しいし。だけど、きっと私を慮って言わないんだろう。どこまでも優しい榛名先輩。私にはもったいないくらいの人。

「お邪魔します」
「どうぞー。狭いですけど、寛いでくださいね」

ワンルームの部屋なので、先輩が待ってるすぐ横で調理を始める。冷蔵庫にある野菜とストックしてあるソースであっという間にパスタが一品完成だ。先輩は戦利品をベッドに並べて仕分けをしながら待っていてくれた。