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「データ精査して、もう一度見せろ」
「はい!」
本日も榛名先輩は榛名先輩であります。
まったく変わらないクールさであります。
仲良くお付き合いできている自信はあるけれど、職場での距離感は変わっていない。びっくりするくらい変化なし。私の気の持ち方で、多少心は軽くなったとはいえ、厳しい指導係・榛名と怒られる落ちこぼれ・行永という構図はそのまま。
「仲良くやってるようで」
榛名先輩が去っていくと、かほが隣の席からぼそりと言う。私は振り向いて答える。
「仲良さそうに見える?相変わらず厳しいでしょ」
「オフィスの外では優しいんでしょ?」
「まあね。退勤とともに優しい彼氏に早変わりだよ」
私は引きつった苦笑いだ。かほが言う。
「厳しいっていうのはすごいよね。どれほどできた人でも、好かれたい相手に厳しくつらく当たるのは嫌でしょ。嫌われたくないもの」
「まあ、そうかも」
「それをきちんと線引きして里乃子に厳しく接する榛名先輩はすごいよ。里乃子の成長を信じてるんだね。愛だわ」
かほの言葉に照れくさくなる。そうかなあ。私ってそんなに愛されてるのか。
単純に嬉しいよね。今まで誰かの特別になったことがない私にとって、家族以外で大事に想ってくれる人ができるって大きな出来事だ。
「好きになれそうな感じ?」
「う~ん、まあそのうちねえ」
私の口調でかほはため息だ。
「榛名先輩カワイソ。里乃子、全然恋愛に興味ないまんまじゃん」



