大光輝企画(だいこうききかく)株式会社は広告代理店業界では比較的大きな企業だ。私、行永里乃子は入社二年目、営業を担当している。

当初、総務部のバックオフィスに配属が決定していた私は、希望通りの人事にほっとしていた。口下手だし、あまりパワフルな方じゃない。営業職よりはマイペースに働ける内勤の仕事がいい。

しかし、社内研修を終え、配属からわずか三ヶ月で営業への転属が決まってしまった。営業部の急な人員不足と、総務に育休明けの先輩が戻ってくることが急遽決まったからだった。
不運を嘆き、自信ないなあなんて思っているうち、私は見事に落ちこぼれた。同期より遅いスタートは理由としては弱い。覚えが遅くておっちょこちょい、要領の悪さ、人前で話すのが苦手……理由はたくさんあった。
結局、私は営業部にあまたあるチームには入れてもらえず、二年目の現在も先輩にぴったりくっつき、マンツーマン指導をされている。

「行くぞ、行永」

鋭く声をかけられ、私は背筋をぴんと伸ばした。

「はい!」

榛名先輩はすでにオフィスのドア付近で待っている。

「前の訪問時のプレゼン資料」

指摘されて、どきんと肩を揺らす私。

「も、持つんですよね」
「当たり前だ。そこに広告枠とその納期がある。一応、それを盾に粘る。何をしに行くつもりでいた?」

厳しい口調と、冷たい表情に私はすくみ上りつつ、慌てて資料を探した。えっと、私の手持ちはあるんだけど、客先に渡して見てもらう用の綺麗な資料が……ない。