どうにか定時ちょっと過ぎにオフィスを出て、とぼとぼ帰路につく。エントランスを出て駅に向かおうとしたところで、呼び止められた。

「行永」

振り返るとそこには榛名先輩がいる。息を切らしている。もしかして走ってきたの?確か午後は外出していて、私がオフィスを出る時にはまだいなかったと思うんだけど。

「一緒に、帰らないか?」

荒い息の間に言われ、私は驚いた顔で彼を見返した。

「お仕事は、大丈夫ですか?」
「ああ、行永と帰ろうと、今日は全部早めに片付けてある」

私と帰ろうと思って?先輩の言葉に私はぶわっと頬を熱くした。
なにそれ、そんな可愛いこと言っちゃうの?私と帰るために早めに仕事終わらせて、外出から急いで戻ってきて、オフィス出て走ってきたの?

「榛名先輩」
「なんだ?」
「私たち付き合ってるんで……よかったですよね?」

榛名先輩が訝しげに首をひねった。

「俺の認識はそうなんだが、……違ったか?」
「いえ!」

私はぶんぶんと首を左右に振った。

「一緒に帰りましょう!」

にこっと笑うと、榛名先輩は頬を赤くし、こくんと頷いた。
可愛い。二十七歳男子、可愛い。

「あのな、せっかくだから、夕食を食べて帰らないか?行永は実家暮らしじゃないよな」
「はい、大学から都内です。夕食ノープランだったので、ご一緒できたら嬉しいです」
「ん、わかった」

榛名先輩は食べるところに検討がついているのか、連れてってくれるらしい。私は黙って後に従った。