「まあまあ、榛名くん。もう少し優しくね。行永くん、客先に持って行く前に気づけてよかったね。確かにそのデータがないと、話が通じないからなあ。気を付けて」

課長が取り成してくれたあと、明るく、だけどしっかり注意してくれる。

「申し訳ありません。すぐに作り直します」

私は資料を手に慌ててデスクに戻った。ちょっと泣きそうな気持ちだった。


「里乃子、大丈夫? 手伝う?」

横の席でかほが心配げに尋ねてくる。聞こえていたみたい。

「大丈夫、手伝うようなことじゃないから。ありがと」

データ抜けなんて完全に私のミスだ。かほは私と違ってチームに所属しているし、手伝いなんかさせられない。私は急いで資料を作り直す。

さて、ここまでの確認です。
榛名先輩、まっっったく変わってなくない?
怖いじゃん。きついじゃん。厳しいじゃん。
私が悪いのはわかってるけど、もう少し雰囲気や口調が柔らかく変化したりしないわけ?
やっぱり昨日の告白は私の夢だったのかなあ。まじっすか。私ってば日々がつらすぎて、都合のいい夢見ちゃったの?うわあ、恥ずかしい~ってさすがにそれはないわ。

結局この日は、外出中も戻ってきてからも榛名先輩は普段通りの榛名先輩だった。私への態度は軟化せず、全然恋人っぽくない。
これは結構ショックだぞ。少しでも関係が良好になればとお付き合いOKしたのに、こんなはずでは感が半端ない。