その晩、私と榛名先輩はクライアントの選定や、営業資料の作成に励んだ。働き方改革で昔よりは残業は減ったらしいし、フレックス勤務もできる我が社だけど、やっぱり遅くまで残る人は何人もいる。忙しいピークがクライアントによって変わるから、仕方のない部分はあるんだよね。
榛名先輩の説明を受けつつ仕事をする私。

「この枠はF1層狙いだから、頭に入れてクライアント選定しろ」
「はい!」

勢いよく返事したら、手元のペンケースの中身がバラバラと床に散らばった。
ああ、こういうところ!
私より早く先輩がかがみ込む。当然私も慌ててかがみ込み、ペンや修正テープを拾い上げた。

「すみません、先輩」
「雑だな。すべてが」

うう、その通り過ぎて何も反論できない。

「見通しが甘くて、処理が雑。真面目にやっておいて、適当に片付けているヤツの方が評価が高いのは悔しくないか?」
「悔しいです」
「それなら、ひとつひとつ丁寧にこなせ」

私がしゅんとしているせいか、珍しく先輩が顔を覗き込んで言う。

「それでも、俺と組んで半年、前より成長している」
「本当ですか?」

単純な私はぱっと顔を上げた。なにしろ、先輩に褒められたり評価されることはほぼない。ほんのちょっとした言葉でも、とんでもなく嬉しい。
デスクの下にふたりでかがみこんだ状態で、先輩を見つめた。もっと、褒めてほしい!という犬みたいな顔をしてると思う。

「……頑張っている、のはわかる」

先輩が微妙に言葉に詰まり、低く言った。うざったかったかな。でも嬉しいな!

「ありがとうございます!そのお言葉だけで救われます!」
「そうか」