「ラウガー。また揉めているのか」
水面に近づいて声をかけたルキ。
すると、ラウガーと呼ばれた彼は濡れた前髪をかき上げながら目を見開く。
「あれ、魔王様!お久しぶりです!“また”ってやめてくださいよぉ。マクが理不尽に怒るんですから」
その時、玄関から人影が現れた。
ブロンドの髪を耳にかけ、眼帯をしたその姿は三十代くらいに見える。中性的な顔をしているが、体格からして男性のようだ。
「人聞きが悪いな、ラウガー。お前が私のハンバーグに人参を混ぜるからこうなったんだ」
「マクの健康を思って混ぜたの!同居人への気づかいでしょ!?」
「うるさい!野菜が嫌いだと言っているだろう!」
やんややんや、と言い合いをする彼ら。
ふたり暮らしと聞いていたし、湖に沈む青年がラウガーという名前なら、野菜嫌いの彼が噂のマクさんなのだろう。とても数百年生きているとは思えない。
だが、ルキから話を聞いていた時から年齢不詳のイケメンなのは予想がついていた。もう、どんな美形が現れたって驚かないんだから。
その時、ふとマクさんが客人に気づいたように肩を揺らす。
「おや?ルキじゃないか。訪ねてくるなんて珍しいね」
「久しぶりだな、マク。取り込み中に悪いが、話がある」
「あぁ、わかった。茶でもいれよう。中に入るといい」
何事もなかったかのようにすんなり招かれたことに驚く。この光景は日常茶飯事なのか?
「来い、ミレーナ」
「は、はい!」
戸惑う中、ルキに名前を呼ばれ返事をすると、やっと私の存在に気づいたふたりが声をそろえた。
「「誰?」」



